検査WG

中央放射線部における安全な画像検査の取り組みについて

WGリーダー 丸上永晃(中央放射線部 副部長)
村井 正二(中央放射線部副技師長)、森岡雅幸(中央放射線部副技師長)

【はじめに】

検査WGでは、適切な感染対策を行った上で安全に検査が行えるように、様々な部門の方々と協力して対策を講じてきました。コロナ診療において最も頻度の高い検査としてはPCRと画像診断でした。今回は画像検査における中央放射線部門での取り組みについて解説したいと思います。

【X 線撮影での取り組みについて】

 当院は1類感染症患者受入機関であり、これまで中央放射線部では年 1 回 X 線撮影の感染防止に対する訓練を病棟ポータブルで行ってきました。今回の 新型コロナウイルス 感染症の対応でもこれまでの経験・訓練を生かして、改めて個⼈防護具(PPE) 着脱再訓練を行い、スムーズに対応ができました。

1,X 線撮影における感染対策

  コロナ陽性患者の X 線撮影は、感染拡大を防止する観点から、病棟までポータブル装置を運んで感染対策を施した上で撮影を行っています。撮影場所を感染制御内科地下外来、トリアージ外来、バースセンター、小児センター、B 棟 7 階、C 棟 8 階、D 棟 3 階、ICU、NICU、救急初療室、救急ICU、7 番手術室に定め、個⼈防護具(PPE)を着用し行ってきました。

2,PPE について

通常は眼・⿐・⼝を覆う個⼈防護具(N95 マスクとフェイスシールドの組み合わせ)、キャップ、ガウン、手袋(2 重)を装着します。ガウンについては以下のとおりビニルエプロンと雨合羽を利用しました。

ビニルエプロンバージョン
ビニルエプロンバージョン
雨合羽バージョン
雨合羽バージョン

3,ポータブル装置の感染対策

ポータブル装置は、撮影後すぐに画像が確認できる FPD(Flat Panel Detector)コンソール(ノート PC)が搭載された機種をコロナ陽性患者専用としました。感染対策としてポータブル装置からノート PC を分離させ使用しました。また、ポータブル装置の清拭について感染管理室と検討しマニュアルも作成しました。
ノート PC は、撮影後画像処理を行うため直接触れることがないようにビニール袋で覆い、FPD は半角サイズをビニール袋に入れました。FPD を入れたビニール袋が破れたり,ビニール袋から取り出す際にウイルスが付着する可能性があるため、FPD も忘れずに清拭しました。

実際の業務
実際の業務

4,ポータブル撮影件数

 当院は新型コロナ重点医療機関としての役割から主に重症・および中等症患者の入院加療を行っています。新型コロナウイルス感染症陽性患者の撮影はポータブル装置で行い、技師2名で対応してきました。病棟での撮影はポジショニングが困難な事例も多くあり、どうしてもの時は技師が支えながら撮影する場合もありました。2020 年 1 月から 2021 年 12 月 31 日までに撮影された新型コロナウイルス感染症陽性患者ポータブルは 9,600 件もあり、ピーク時は数十⼈の撮影を行う日もあり技師の確保に努めながら日々対応してきました。
 新型コロナウイルス感染症陽性患者撮影対応者は、PPE 着用の肉体的負担と困難な撮影への精神的負担でいっぱいでしたが、奈良県民を守る最終ディフェンスラインであるとの意識をもって今後も対応を続けてきたいと思っております。

新型コロナウイルス感染症陽性患者ポータブル件数
新型コロナウイルス感染症陽性患者ポータブル件数

【CT検査での取り組みについて】

 新型コロナウイルス感染症患者のCT検査を初めて行ったのは、2020年2月でした。患者は、大型クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセス号から横浜港で下船した観光者の男性2名、女性2名でした。患者4名の検査依頼を受けたのは、私の誕生日でしたのでこの日の出来事はしっかりと記憶していますし、忘れることはないかと思っています。
 患者がCT検査室に来られたのは午前3時頃でした。当直勤務の放射線技師1名と待機していた私との2名で、検査室内と操作室に分かれて検査対応を行いました。検査室は陰圧室ではないので、検査室と操作室をつなぐ出入り口にはシートとガムテープで目張りをして、検査室から操作室への空気の流入を防ぎました。検査室内に入る私は、N95マスク、ゴーグル、ゴム手袋、防護衣を装着し患者対応を行いました。検査後は、患者が接触したと考えられる部分や検査装置のアルコールを用いての清拭、CDCガイドラインに従い120分間の換気時間を設けて検査室入室制限を行いました。
 新型コロナウイルス感染症患者のCT検査は、2月の4名以降は4月下旬頃まで実施されることはありませんでした。2020年5月以降は全国の感染者増加と同じように奈良県内の感染者も増加傾向となり、当院の新型コロナウイルス感染症患者関連(疑似症患者を含む)のCT検査も増加しました(図1)。CT検査は原則として、来院されている方が少なくなる17時以降に16番CT検査室で行っていましたが、トリアージ外来からのCT検査依頼や入院患者の緊急対応が必要となった場合、別の検査室での運用を検討する必要が出てきました。また、1日に数件の検査依頼があった場合など、検査室内の換気時間の制限で、連続して検査ができないことも検討課題となりました。
 以下、CT検査室の換気時間短縮に関する取り組みを紹介します。

図1 新型コロナウイルス感染症患者のCT検査数

1,日常勤務帯でのCT検査対応

 新型コロナウイルス感染症患者のCT検査は、感染症患者と一般の来院者の接触機会を考慮して、来院者が少なくなる17時以降に16番CT検査室で行うことを原則としていました。しかし、トリアージ外来からの依頼や緊急の依頼が増加し、それらに対応できるように、救命救急センターの協力を得て、日常勤務帯でのCT検査は、救命救急センターCT検査室で行えることになりました。救命救急センターCT検査室で感染症患者の対応中に、救命救急センターの患者でCT検査が必要となった場合は16番CT検査室で対応することとしていました。しかし、CT担当者が救命救急センターのスタッフと、緊急搬送などの情報を共有することで、16番CT検査室で救命患者の検査を行うことはほとんどありませんでした。

2,検査後の立ち入り制限時間

 新型コロナウイルス感染症患者のCT検査後には、次に検査室に入室する患者やスタッフへの感染防止のために、換気時間として結核患者の対応と同様に汚染物質を99%除去するために必要な時間を適用して立ち入り制限時間を設定しました。CT検査室の吸排気システムの性能から、1時間当たりの換気回数を算出すると、16番CT検査室で2.9回/1時間、救命救急センターCT検査室で5.6回/1時間になります。換気回数と汚染物質の除去に必要な時間を示した表(表1)と、その表から導いたグラフ(図2)より、汚染物質を99%除去するためには、16番CT検査室で120分、救命救急センターCT検査室で50分の換気時間が必要となります。このことより、新型コロナウイルス感染症患者のCT検査後には、16番CT検査室で120分、救命救急センターCT検査室で50分の立ち入り制限で感染対策を行っていました。
 2020年11月頃からは、CT検査の実施件数が急激に増加して(図1)、これまでの換気時間の運用では、検査を進めることができなくなり、換気時間の短縮について検討を行うことになりました。

図2 1時間当たりの換気回数と99%空気汚染粒子除去効率
表1 1時間当たりの換気回数と99%空気汚染粒子除去効率

換気時間短縮の検討

 換気時間を短縮するためには、CT検査室の吸排気システムの換気能力を上げることや、ウイルスを除去するための装置を検査室内に設置することが考えられました。換気能力の変更は、施設の吸排気のバランスを崩すことになるので不可能でした。ウイルスを除去する装置に関しては、需要が多く、納期がいつになるかわからない状況でした。そこで、少し前に何かの役に立つかと考えて保管しておいたクリーンパーティション(日本エアーテック株式会社)(図3)の使用を検討しました。クリーンパーティションの使用にあたっては、新キャンパス・施設マネジメント課空調係の担当者、感染管理室の看護師と協力して換気時間の算出や運用方法の検討を行いました。検討の結果、別添資料1・2のとおり、16番CT検査室で120分→40分、救命救急センターCT検査室で50分→25分へ変更可能になりました。クリーンパーティションは1台しかないため、日常勤務帯では救命救急センターCT検査室、当直勤務帯は16番CT検査室へと移動させての運用を行っていました。2021年9月には、発注していた新型のクリーンパーティションが納入され、救命救急センターCT検査室に設置して運用を開始しました。新型のクリーンパーティションは性能が大幅に改善されて別添資料3のとおり、50分→18分へ換気時間の短縮が可能となりました。

図3 クリーンパーティション(日本エアーテック株式会社)

【おわりに】

 このように、科学的根拠を元に、適切な感染対策を行って多くの検査を施行してきました。幸いにも検査施行による職員の感染は無く、これまで安全に検査が行えた事は、中央放射線部としては大変誇らしい経験でした。今後も未知の感染症に晒される可能性もあります。今回の新型コロナウイルス感染症で得た経験を忘れることなく、1類感染症患者受入機関として今後も研鑽を積んでいきたいと思います。

検査WG資料1
資料1
検査WG資料2
資料2

検査WG資料3
資料3