感染対策WG

感染対策WG
感染管理室 徳谷純子

 新型コロナウイルス感染症は2019年、年末ごろからニュースで取り上げられ始め、当初は中国の武漢で流行が始まりましたので、武漢ウイルス感染症などと呼ばれ、私も遠い国で起きていることと情勢を見守っておりましたが、奈良公園などでは外国人旅行者が多く、中国人旅行者でにぎわっていました。そうこうしているうちに、2020年1月中国人旅行ツアーの奈良県在住日本人のバス運転手さんが国内で初めて、渡航歴のない感染例として当時は話題になりました。私はその時、院内の職員として最初に対面したことを覚えています。ご家族も同行しておられましたが今後、過熱するかもしれない報道を知る由もない様子に不安を覚えたものでした。

 さて話を病院内のことに戻します。感染対策全般を管理する部門として感染管理室があり多職種で構成されています。患者さんが安心して安全な医療が受けられるように、感染を未然に防止するための取組は多面的に進めなければなりません。どの診療科に診てもらっていても、どの病棟に入院しても同じ感染対策をしなければなりません。例えば、手袋を着けて採血する職員とそうでない職員がいたり、熱心に手洗いをする職員とそうでない職員がいたり、抗生物質を長い期間投与する医師と、短期間で終了する医師がいたりするなど例を挙げるときりがありません。このような職員それぞれの考えや行動の違いは時には軋轢が生じることもあります。新型コロナウイルス感染症の感染対策に対応する中、とても実感したものでした。

 感染対策を講じるために基本的な考え方は「標準予防策」という考え方で、現在はグローバルスタンダートとなっている差別なく誰に対しても行う感染対策のことです。血液や体液をはじめ粘膜や傷は感染性を有するものとして、手袋など防護具を着けるというものです。医学生や看護学生の教科書からすでに掲載されており、在宅、救急隊員も同様に行うべき感染対策です。この言葉を知っている医療者は多いですが、理解して実践することがなかなか難しい点があります。

 新型コロナウイルス感染症がいよいよ差し迫り、更に自分達も対峙しなければならないという状況になると、職員は不安とともに焦り始めたことが分かる相談が増えました。そこで感染症と戦うための武器となる平時から取り組んでいた標準予防策の実践を強化することにしました。ピンチはチャンス!と発想を転換して、知っている人は多いですが実践に結びついていない標準予防策の再周知を行いました。

 最初に取り組んだことは、防護具の着脱の動画撮影とDVD化と配布、実際の着脱練習を4月に行いました(写真1)。自分が感染するかもしれない!という不安は、当たり前に使用しているはずの防護具の着脱でさえ自信がなく多くの職員が参加しましたし、何度も繰り返し参加する職員もいました。

写真1
(写真1)
職種(受付記載範囲)延べ参加数
医師(歯科医師含む)240
臨床研修医2
看護師348
臨床検査技師56
臨床工学技士40
合計686
期間2020/4/15~2020/6/19
表1 防護具の着脱練習参加者数(感染症センター看護師は事前練習のため除外)

 この練習中に世界的大流行を実感したことがありました。それは、感染対策のためには使い捨てるはずの手袋やガウンなどの防護具の入荷が滞り始めたことでした。着脱練習のために防護具を使い捨てることができないため消毒や乾燥を繰り返して、再利用して練習を行いました(写真2)。使い捨てるガウンの入手が困難になると手術用の滅菌ガウンを着用することが手術より優先となり、手術では布製ガウンを着用することが一時期発生しました。また使い捨ての手袋も品薄となり、物品調達の用度係の事務職員は随分と奮闘してくれました。こういった中、企業や個人の方々から防護具のご寄附を大変沢山いただきました。添えられていたメッセージを読んでは心が温まり涙を流し、気持ちを奮い立たせたものでした(一部紹介写真3)。応援メッセージは町の所々に掲示があり、真夜中の家路で感激したこともありました。

写真2
(写真2)
写真3
(写真3)

 当院では、最大80人(当初は150人)の新型コロナ陽性患者さんを受け入れる体制を整えてきました。それは大学病院であり、色んな持病を抱える患者さんに対応ができるという県民の期待もあると考えています。それゆえにたとえ新型コロナウイルス感染症であっても、必要な治療や検査を妨げないための感染防止を優先した調整を行いました。手術や血管内治療、分娩や新生児集中治療、透析など感染対策WGの他、ほとんどのWGに参加しながら病棟支援などあらゆることが並行で行われ、感染管理室の中で業務を分担しました。また80人を受け入れるといっても1つの病棟で対応することは不可能ですので、コロナが陽性で入院したとしてもその患者さんにとって最適な病棟へ入院するために、内科病棟の他、小児科病棟や産科病棟、精神科病棟、集中治療部門などの整備を進めました。そのような中で、職員の不安は相当なもので、看護管理者と共にスタッフの不安を取り除くために傾聴と対話を重ねました(写真4)。この時、皆の不安を聞いている自分も感染管理者ながら自分もり患するかもしれない、家族に伝播させるかもしれないという不安を感じるようになり、不安は連鎖するものだと実感したもので、家族へ明確はかけられないと強い覚悟を覚えたものでした。また科学的根拠に基づいた医療を実践する者が医療従事者であり、感染対策も科学的根拠を基に推進して今日に至ったのが、医療者の不安を解消することが優先となり、科学的根拠に基づいた感染対策が脆く崩れ落ちる様子をまざまざと見せつけられたものでした。

写真4
(写真4)

 新聞の掲載記事に新型コロナウイルス感染症で亡くなられた後、家族が対面できるのは遺骨になってからと紹介されており、近代医療においてもこんなつらい対面があるという衝撃を受けたものでした。このことも感染対策WGで話し合いました。看護師の思いと、病院長からも「感染対策を講じたうえで看取りの機会を設ける」と後押しを頂いたことを覚えています。これ以降、タブレットを用いた面会やご家族に防護具の着脱を指導したうえでの面会など看護師はコロナ渦でもできる看護を懸命に取り組んでくれました。一部の紹介は、学報vol.76 2021春号に終末期の面会について掲載されています。

 大学病院は職員数も多く、職種の幅も広く医師や看護師も専門性が高い分まとまりにくいと私は考えていました。しかし法人全体(大学及び病院)で取り組むという方針が出され、いくつものWGが立ち上がり、協力し合う様子を見ましたし、今も続いているコロナとの闘いでは、協力体制が不可欠です。さらに入院が始まった当初は看護師がほとんどの業務を行っていましたが、防護具を適切に着脱することで感染は防ぐことができるという病棟運営で立証につながり、徐々に少し他の職種もコロナエリアで業務を遂行してくれるようになりました。現在は清掃が委託で入ってくれるようになり、廃棄していたシーツなどの寝具も院外で回収洗濯が可能となりました。第5波の終息でコロナが遠のくことを期待しておりましたが、2022年1月第6波が大波となって突然押し寄せてきました。この大流行も病院全体で乗り切りたいと考えています。感染管理室で活躍してくれたメンバーからのメッセージも紹介します。

【看護師 中村 明世 (感染管理認定看護師)】

 感染リスクの高い状態での業務は、通常よりも手がかかります。人員の不足に加えて新たな業務が加わることでどの職種も身体的・精神的負担は重くなる傾向でした。通常のケアと異なる方法を感染防御の視点から提案し,職員の安全を考慮しながらマニュアル作成をしました。特に 『死』に直面する場面では、当院は早い段階から家族の心情や思いに寄り添うことができるよう多忙な業務に追われながらも看護職が中心となり、手紙や写真などを棺に入れることや濃厚接触者の家族が最後のお別れができるよう家族ケアに力を注ぐマニュアルが作成されました。治療や看護ケアの中で職員に対して、心無い発言を言う患者・家族や職員もおり『ウイルス』を憎む毎日が続いています。患者・患者家族・職員の安全の健康を守るという使命の元、チームワークを大切に患者・家族以外の職員・職員の家族にも目を向け、このウイルスとの闘いを乗り越えていきたいです。

【事務職員 森内 史子】

 新型コロナウイルス感染症で入院されている患者さんに関する行政機関からの調査には、さまざまのものがありますが、その中でも、患者居住地の管轄保健所などに報告しなければならないものがあります。報告内容は多岐にわたっており、咳嗽及び咽頭痛等の症状の有無、最大酸素投与量、人工呼吸器導入の有無、治療薬剤の内容、PCR検査の結果などの報告です。

 新型コロナウイルス感染症が流行し始めた当初は、HER-SYS等のシステムが確立されておらず、担当の保健師からの電話問い合わせに口頭で回答していました。徐々に患者数も増え、連日の電話応対に長時間を要し、時には1時間以上を費やしていたこともありました。そこで奈良県内の保健所には統一の様式を用いて患者情報のまとめたものをメールで報告することにし、その様式への入力は、感染制御システムを使用することや医師や看護師の協力を得てカルテ記載を統一の様式を使用してもらうことで効率化を図りました。

 診療だけではなく、医療行政的な業務においてもチームで取り組むことの大切さを学びました。

【その他室員(令和3年度)在席】

  • 看護師 久留野 紀子
  • 薬剤師 大久保 佳代
  • 事務職員 松村 佳美
  • 事務職員 横田 理恵