新キャンパス・施設マネジメント課
1.施設・設備面での対応に際して
当課では大学及び病院の建物、電気・空調・給排水衛生・医療ガス設備の維持管理や清掃・警備を担っていますが、このたび新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病棟等の改修対応について、最優先事項であるとの共通認識のもと、応急対応も含めてできる限り迅速に対応することを心がけました。
新型コロナウイルス感染症対策を検討するために様々なワーキンググループ(以下「WG」という。)が立ち上げられ、当課の業務の性質上、ほぼ全てのWGに参加する必要があり、課長補佐が各WGに参加し、検討課題や決定事項を課内で共有する体制としました。
まず、改修工事の発注にあたって、感染エリアの現場に入ってくれる施工業者の確保が課題となりました。また、普段とは異なる環境下での作業であるため、感染管理室・病棟等と作業工程の確認を念入りに実施し、個人防護具の着用指導を受けながら、慎重かつ確実に工事を行いました。具体的な取り組みとしては、後述するとおりゾーニング変更への対応や水際対策への対応のほか、コロナ病棟での看護師負担軽減のため、清掃委託の再検討も行いました。
職員で対応したものとしては、病室等の陰圧化、温水洗浄便座の給水停止、ゾーニング内外連絡用インターホン設置、サインや案内変更などがあり、感染管理室から指示確認を受けることを徹底しながら、速やかな対応を心がけました。
2.具体的な取り組み
(1)ゾーニング変更への対応
①陰圧化対策及び冷暖房対策
「感染対策上は『陰圧室である必要はない』とされているが、医療従事者の安心感のため陰圧であることが望ましい」との病院判断を受け、救急ICU個室、E棟6階バースセンター、C棟3階ICU、C棟8階北エリアを徐々に陰圧化していきました。C棟8階にある感染症センター以外では、陰圧室として設計されている部屋は少なく、多くの部屋やエリアで陰圧化を実施するため、次の二通りの方法を用い、場所によっては併用しています。(2020年3月から)
1)HEPAフィルター内蔵の排気装置を仮設し、窓から室外に排気して陰圧化
2)空気調和機の給気量を減少させて陰圧化
陰圧化を実施した部屋としては、以下のような各室、各エリアでした。
●各科病室(C1、C3、C8、B6、B7、E4、E6、E7等) ●手術室 ●救急処置室
●精神科病室 ●IVRセンター ●放射線撮影室 ●透析室
感染者数の増減によりゾーニングするエリアが拡大・縮小され、陰圧化が必要な部屋やエリアも逐次変わり、速やかなゾーニング変更に対応するため、陰圧化の設定・解除の作業は職員が行いました。ICUや手術室についても、当初は職員による陰圧装置の仮設を行いましたが、長期化を見据えて常設が必要と判断し、排気装置や給気切替装置の設置を施工業者に依頼しました。また、看護師等でも陰圧状態が確認しやすいように、気流を可視化できるスモークテスターの代用品として、水を霧状に発生させることができる携帯型ネブライザー(注1)を部署毎に配置し、活用いただきました。
冷暖房については、陰圧化のために空気調和機の給気量を減少させることで、空調が若干効きにくい状態になります。このため防護服を常時着用する感染エリア等にスポットクーラー設置などの依頼もあり、必要な箇所に設置しました。新型コロナ対策として各教室等の窓を開けての換気が推奨されましたが、課題としては、窓を開けながらの冷暖房や排気風量の増加は、冷暖房機器に負担をかけるだけでなく、更なるエネルギーの消費を引き起こすなどエネルギー管理方針とは相反するものとなっています。また、夏場の多湿時に窓開け換気を行うと、湿った空気が室内に入り冷房機器や吹出口で結露が発生するという問題もあるが、結露防止テープを張る程度の対応しかできない。
②区画扉等の設置
C棟8階を新型コロナウイルス感染症専用病棟として使用することが決まり、B棟8階との区画やC棟8階内でのゾーニング区画が必要になり、短期間での対応が最優先のため、既製品の建具(開き戸)を確保し、これにLGS(軽量鉄骨)で袖壁を作ることで対応しました。その後、B棟7階、B棟6階へと新型コロナウイルス感染症専用病棟が拡大するに伴い、同様の対応を行いました。このようなゾーニングのための間仕切りは、D棟3階の廊下や、C棟3階ICU、E棟7階でも設置しました。エレベーターホール側廊下と病棟スタッフステーションの間が区画されたことで、外部からエリアに入る方の確認用インターホンの設置要望もあったため、職員で対応しました。(2020年4月)
その後、感染拡大状況が一旦落ち着いたタイミングを見計らい、各病棟への面会制限強化のため、オープン型で利用していたBC棟4階~8階の病棟入口にカードリーダー式自動ドアを設置しました。製作日数は3週間かかるものの、現場での施工が2日と短く、施工時に粉塵も出ないことから、工場製作のパーティション間仕切り壁付自動ドアとし、電気配線工事、スプリンクラー設置工事も並行して各階順に工事を行いました。病棟運用しながらの工事であるにもかかわらず、病棟側の協力もあり問題なく工事完了できました。(2021年3月)
カードリーダーでの施錠・解錠を行うため、電気錠システムを設置する必要がありましたが、既存設備での増設ができないため、新たな制御装置の導入を行いました。機器の製造・設置・調整を工期内に収めるために、施工業者との工程調整を綿密に行い、また、更新にあたり全ての電気錠が停止するため、各病棟との調整も実施しました。
スタッフステーションで新型コロナウイルス感染症患者の病室での状況把握ができるようにするために監視カメラ設置の要望(B棟7階、C棟8階、C棟3階)がありましたが、新型コロナウイルス感染症患者が在室しているエリア内での工事を断る業者が多く、施工可能な業者を探すのに苦慮しました。業者が決まってからも、病室が空いている時にしか工事に入れないため、各病棟との連絡を密にし、無事に工事を完了させました。
(2)水際対策への対応
①発熱トリアージの実施対応
院内へ発熱患者等が不用意に入ってしまうことを防ぐため、複数個所あった病院出入口を南北2箇所に限定し、発熱チェックシートを用いた確認と体温測定を実施することになりました。これに伴い、開門時間も7:45からに変更されることになり、注意喚起のための看板や、駅に掲示するポスターなどについて、職員で対応しました。(2020年4月)
②発熱トリアージ外来の設置対応
発熱患者等を玄関で確認した場合、外来での感染を防止するため、通常の外来ではなく発熱トリアージ外来に案内することになりました。当初(2020年4月)は臨床医学研究棟1階の大会議室を利用していましたが、土日夜間の救急対応を考慮し、救急玄関や救命救急センターに近い管理棟1階の旧リハビリエリアを改修して使用することになりました。(2020年5月)
設置する発熱トリアージ外来の仕様(院側からの要求)として
- 部屋の構成は診察室、処置室、検査室、待合、受付、スタッフルーム
- 検査室に既製品の陰圧テントを設置
- 受付はトリアージ専用とし、隣に外部からのアクセス可能なスタッフルーム
- 待合は、1人1室の個室
- 診察室や処置室には医療ガスも必要
とのことで、なるべく早く開設したいという院内の要望もあり、計画の段階で納期確認を行い、最短納期の商品を選択する等の工夫が必要でした。不確定要素もある中で着工しましたが、業者の協力もあり1ヶ月程で完成しました。(2020年6月)
当初案では、既設の外来女子トイレを発熱トリアージ外来専用としていましたが、トイレまでの導線に発熱トリアージ外来エリア外も含まれていたため再検討となり、発熱トリアージ外来エリア内にトイレを新設することとし、さらに要望によりベッドパンウォッシャー(注2)も設置しました。また、医療ガス設備工事も実施し、診察室1~3、処置室、待合室に酸素及び吸引のアウトレット(注3)を新設しました。内部の改修だけでなく、夜間対応として発熱患者を救急車で搬送するルートの照明増設も行いました。
(3)清掃対応
新型コロナウイルス感染症患者を初めて受け入れた際、ウイルスの性質や病態の情報が未確定のこともあり、受入病棟の感染エリアの清掃については、現委託業者の清掃スタッフにはさせられないとの病院判断から、病棟看護師が行うこととなりました。
しかしながら、入院患者数が増加するに伴い、看護師の負担が過重となり、清掃を委託業者で実施してもらいたいとの要望が強まり、感染管理室の指導を仰ぎながら、個人防護具を装着しての清掃について、現委託業者に実施を要請しました。(2020年12月)
現場の清掃スタッフは、日頃の看護師たちの大変さを実感していたこともあり、前向きな姿勢を示してくれていましたが、現委託業者の会社上層部としては、万一従業員が感染しクラスターが発生した場合、事業の継続が困難になるとの懸念から、感染エリアの清掃は受託できないとのことでした。
正しい対策をとれば、感染の可能性は低いことを繰り返し説明し、現場清掃スタッフから会社上層部への説得を試みてもらい、他の委託業者を探すなど対応を模索するも、なかなか解決策が見つからず苦慮する中、現委託業者から対応可能な協力業者が見つかったとの連絡があり、委託業者による清掃を開始することができました。(2021年4月)
新型コロナウイルス感染症患者の入院病室を清掃する専門スタッフをC棟8階に月曜日から金曜日3名、土曜日2名配置し、他の病棟に入院した新型コロナウイルス感染症患者のエリアへも出向く形で日常清掃、退院時清掃、環境整備業務を行っています。
3.保守点検及び修理について
新型コロナウイルス感染症患者が多数在室しているため、空調設備の定期保守点検(通常2ヶ月毎実施)やフィルター清掃ができない状態が続きました。冷暖房に支障が出るまでには至りませんでしたが、結局、半年以上実施できないということになりました。また、空調設備の自動制御機器が故障しましたが、修理のために空調設備を停止すると陰圧が維持できなくなってしまうため、応急的に風量調整を実施して手動運転で継続することとし、修理を先延ばししました。
これらについては、入室患者数が少ないタイミングを見計らって、防護具の着用等、業者にも感染対策に協力していただき、点検及び修理を実施することができています。
4.これまでの反省及び今後について
新型コロナウイルス感染症対策としての施設改修等については、病院長や感染管理室を中心に、各WGで検討を重ね、示された改修内容について当課が実施するという流れでした。これらの対策を迅速かつ確実に実施することに重きを置いたため、何か重大なことを忘れていないか、反省点は無いかなどを振り返り、以下のような内容を今後に活かしていきたいと考えます。
- 新型コロナウイルス感染症のまん延により経済活動が停滞することにより、世界的な半導体不足が生じており、特に電気用資材を中心に納期が予想以上にかかる。この点を今後の工事発注において念頭に置く必要がある。
- コロナ対応の改修工事についても、工事完了と共に全てが終わったと思いがちであるが、実際使ってみて不具合の有無を確認し、次の改修に活かすことが重要である。
- 病院からの指示に従うだけではなく、建設業者などからコロナ対策の情報を収集することで病院に対して提案ができるよう心掛ける。
- 何か対策をしようとする場合、狭隘な現キャンパスでは場所探しに苦労する。このため事前に空きスペースを把握しておく。
(注1)ネブライザー・・・吸入器
(注2)ベットパンウォッシャー・・・汚物容器を自動で洗浄する機械
(注3)アウトレット・・・医療ガス配管の接続口