透析WG

WGリーダー 米田龍生(透析部 病院教授)

はじめに

 透析医療は限られた空間での多人数の同時治療となるためクラスター発生のリスクが高く、また透析患者は免疫能が低下しており、高齢、糖尿病、合併症併存などの背景も相まって重症化のリスクが高く、新型コロナウイルス感染症に対する対策が早期より重要視されてきました。

 奈良県では2020年1月28日に国内第1例目が発生しており、早期より県の地域医療連携課緊急医療対策係より透析医療体制整備の協力依頼があり、当院の透析部でも県の基幹病院として新型コロナウイルス感染症関連透析患者の受入れ体制整備を行い、陽性症例、疑似症例、濃厚接触症例の受入れを行っております。

1.初期対応

 クラスターのリスクを有する透析医療では、新型コロナウイルス感染症関連透析患者の受入れ人数の予測が困難ですが、透析部は新型コロナウイルス感染症以外の透析患者に対する血液透析(HD)を施行しているため、新型コロナウイルス感染症関連のHD患者の人数が少ない場合には感染症センターでの病棟HDを行うこととし、HD装置を設置する個室を2部屋決めました。当初、新型コロナウイルス感染症患者はすべて感染制御内科医がベッドサイドでの病室HDの管理を担当することとなりました。人数が増え、病棟透析が困難となった際には、火曜・木曜・土曜を新型コロナウイルス感染症関連の透析日とすることとし、透析部にある2部屋の陰圧化工事を施行しました。同時に、当院透析部で通院HDを施行していた患者さんは他の透析施設に転院してもらい、通常のHDは月曜・水曜・金曜にシフトさせ、火曜・木曜・土曜を終日新型コロナウイルス感染症対応のため空けるようにしました。

 新型コロナウイルス感染症の疑似症や濃厚接触者は隔離が必要となります。特に、濃厚接触者は14日間の自宅隔離となりますが、透析患者さんはその間もHDを行う必要があります。日本透析医会の指針では、通常透析と時間をずらしたり(時間的隔離)、2m以上の間隔を開けてパーテーションで区切ったりして(物理的隔離)透析を行うようになっていますが、小規模の透析施設ではこう言った対処が困難なため、陽性患者のみならず、疑似症や濃厚接触者の透析の受入れも必要になると考えられました。幸い、透析部は外のベランダにゴミ運搬用の外部エレベーターがあり、これを用いることで院内を通らない動線が確保出来ます。通院可能な疑似症や濃厚接触者は家人に病院地下のエレベーターホールまで自家用車で送迎してもらい、PPE(防護服)着用の透析部の看護師がそこで迎えて外部エレベーターを用いて透析部に入室することとしました。送迎が困難な場合は社会的入院をしてもらい透析をすることとしましたが、その後、新型コロナウイルス感染症専用の駐車スペースが設置されたため、自身で運転して通院することができるようになっています。実際、当院で初めて経験した新型コロナウイルス感染症関連透析患者さんは濃厚接触者の通院透析でした。

 透析部の個室での受入れ体制整備として、感染予防策の徹底が必須となります。患者の送迎や治療、治療後の清拭、消毒まで、感染管理課の指導を仰ぎながらマニュアルを作成し、PPE着脱の練習も行いました。実際、患者を受入れた際には、予期しなかったことも少なからず生じ、受入れごとにカンファレンスを開き、その都度マニュアルを修正していきました。

 透析ワーキンググループでは、受入れ体制の確認と、個室の陰圧化や外部エレベーターからの入室のための車椅子用のスロープ設置や扉のストッパー装着、エレベーターホールの夜間点灯などの設備整備も対応してきました。

2.オープンフロア陰圧化工事

 幸いなことに、第1波では奈良県内でも陽性の透析患者は見受けられませんでしたが、奈良県医師会透析部会による県内の透析施設へのアンケート調査では、自施設での新型コロナウイルス感染症関連透析患者の対応に関して、入院受入れ可能施設が13.2%、通院受入れ可能施設が37.7%と非常に少ない結果が明らかとなり、奈良県の透析医療の基幹病院として当院での受入れ体制の拡充が必要と考えられました。透析患者さんは新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクが高いだけでなく、腎不全による溢水、肺水腫などにより呼吸状態が悪化しやすく、咳嗽などや吸痰処置によるエアロゾル発生の可能性も高いと考えられ、透析ワーキンググループで検討の上、第1波と第2波の間の期間に、間仕切りおよび陰圧ポンプを設置して、オープンフロアの10床のエリアの陰圧工事を施行しました。(図1・2)

図1. オープンフロアの陰圧化工事
図1. オープンフロアの陰圧化工事
図2. オープンフロアの陰圧化工事

 透析部の個室の1部屋はこのオープンエリア外にあるため、C棟4階の泌尿器科病棟を通過して透析部の裏口から入室することで、オープンフロアで複数の陽性患者の透析を施行している場合でも、新型コロナウイルス感染症関連でない患者の透析がこの個室で施行できるようになりました。また外部エレベーターからベランダを通過して、泌尿器科病棟の非常扉から透析部の裏口を通って入室することで、疑似症や濃厚接触者の通院透析も受入れることができるため、従来鳥よけのネットで区切られていたベランダに金属製ネットの付いた扉をネットの代わりに設置し、病棟の非常扉まで通過ができるようにしました。

3.新型コロナウイルス感染症関連透析患者の増加

 患者増加を想定して、受入れ体制の整備と拡充を進めて参りましたが、実際に奈良県で陽性透析患者が発生したのは第3波に入ってからでした。第1波では火曜・木曜・土曜を終日新型コロナウイルス感染症対応として空けておりましたが、第1波では対象症例が少なかったこと、また当初新型コロナウイルス感染症対応で縮小していた病院全体の一般患者の受入れ制限が緩和されることにより、通常の透析患者が増加したことから、火曜・木曜・土曜の午前は一般の透析を行い、午後を新型コロナウイルス感染症対応に空けるようにしています。

 疑似症や濃厚接触者の透析の経験から、透析部での新型コロナウイルス感染症関連の対応がしっかりしたものになったこと、また不慣れな病棟でのHDのリスクやベッドサイドに付く人員の確保などの問題から、陽性患者数が少なくても、感染症センターから外部エレベーターを使って、院内を通らない動線で透析部に入室して陽性患者のHDを施行することとなりました。第3波では患者数がまだ少なく、透析部の個室を用いたHDを行っておりましたが、第4波に入り、多数の陽性患者の透析が必要となり、オープンフロアでの同時透析を行うこととなりました。

 HDは体外循環を伴う治療であるため、抜針などの事故により大量出血を生じる危険性があり、すぐに対処できるよう、原則ベッドサイドにスタッフがいる必要があります。中にいるスタッフは長時間のPPE着用となるため著しく疲弊します。個室2部屋を用いた場合には各々スタッフが常駐する必要がありますが、オープンフロアで同時施行の場合は常駐スタッフの人数を減らすことができ、途中で交代することでPPE着用のスタッフの負担軽減に繋がります。しかしながら、濃厚接触者や疑似症はそれぞれ隔離が必要となるため個室を使用せざるを得ません。スタッフの増員要望も行いましたが、新型コロナウイルス感染症透析患者数の増減が著しいこと、集中治療室や新型コロナウイルス感染症対応病棟などに人員が取られていることなどから、透析部のスタッフ補充はままならず、夜遅くに、PPEを脱いでげっそりとしたスタッフを見るたびに心苦しく感じております。

 オープンフロアで透析を施行する際に生じる課題として、透析後の消毒があります。個室は空間容積が限られているため、清拭の後にオゾン装置で消毒を行っております。(図3)

図3. オゾン装置による個室の消毒
図3. オゾン装置による個室の消毒
図4. 紫外線装置による個室の消毒
図4. 紫外線装置による個室の消毒

しかしながら、オープンフロアの空間は広く、オゾン装置での消毒は不十分となるため、清拭の上、紫外線装置を用いて消毒を行っています。(図4)紫外線装置で消毒できる範囲は限られており、何回か装置を移動させて消毒を繰り返す必要があり、数時間かかることもあります。消毒が終わり、翌日の通常の透析の準備を終えると24時を回ることもあります。透析部のスタッフは使命感に燃えて、文句を言わず頑張ってくれていますが、スタッフの疲弊が日々心配されます。

4.今後について

 2022年に入り、オミクロン株が爆発的に拡がり、奈良県も1日1,000人を超える陽性患者が発生するようになっています。オミクロン株は感染が拡大化しやすいが、重症化は少ないと言われており、症状が軽く入院に至らない症例も多いようですが、透析医療に関しては逼迫した状況になっています。感染力の強いオミクロン株は透析施設内で一気に拡がるクラスターのリスクが高いため、各透析施設での陽性患者の受入れが困難となり、当院でも連日のように保健所から受入れ要請があり、透析部で7名(オープンフロア6名+フロア外個室1名)、病棟で2名、合計9名の新型コロナウイルス感染症関連のHDを同日にする状況にも陥りました。すでに保健所もあまりの患者増加に対応が困難となり、陽性透析患者も1日以上自宅で待機することが多くなっています。当院では可能な限りの透析患者の受入れを行っていくつもりですが、平行して通常の透析も行う必要があり、受入れ人数には限界があります。第1波の時のように火曜・木曜・土曜を終日、新型コロナウイルス感染症対応で空けようと考えておりますが、通常の透析患者の入院が多く、すぐには困難な状況です。奈良県の他の新型コロナウイルス感染症透析受入れ施設に関してもどこもいっぱいになっています。今後、さらに増加する場合は、当院で受入れることができるまで、各透析施設で時間的、物理的隔離を行って透析してもらう必要が出てくるかも知れません。その際は当院で培った対応方法を説明し、安全に施行できるよう指導する必要があると考えております。

おわりに

 当院は新型コロナウイルス感染症関連透析の受入れ体制の整備と拡充を行って参りました。しかしながら、当院の受入れにも限界があり、各透析施設、透析患者、透析患者の家族の感染予防策の徹底が重要となります。奈良県の透析医療の基幹病院として、可能な限りの新型コロナウイルス感染症関連透析の受入れを続けていくとともに、各透析施設への啓発や隔離透析の指導なども行い、奈良県透析医療のこの未曾有の危機を乗り越えたいと思っております。

 最後に、奈良県の透析患者さんのために対応いただいている保健所の皆様、県の皆様、医療スタッフの皆様ならびに、遅くまで頑張っている当院透析部のスタッフの皆様に深く感謝申し上げます。