周産期WG

WGリーダー 赤坂 珠理晃(産婦人科学 講師)

 当院はかかりつけ妊婦以外の診療にも対応しています。周産期には大きく妊婦の治療にあたる産婦人科部門と、新生児の治療にあたるNICU部門があります。

【産婦人科部門の取り組み】

1.妊婦への啓発

 当院ではポスター掲示を通じて新型コロナウイルスに関する情報発信を行っています。外来診療では産婦人科医や助産師が感染予防についての生活指導を行うなどの活動を継続的に行っています。
 また、ワクチン接種についても少しでも不安がなく接種していただけるように、また患者の自己決定をサポートできるよう、適切な情報提供と個々の患者への丁寧な説明を心掛けています。

2.妊婦からの連絡/相談

 感染に関する連絡/相談に対しては24時間体制での電話対応をしています。感染した場合の妊娠への影響、治療内容、分娩方法などに関する情報提供をすることで、出来るだけ不安を取り除き、母児の安全確保に努めています。
 職場や家庭内での濃厚接触に関しても多くの電話相談が寄せられます。出来る限り丁寧な聞き取りを行い、家庭内での隔離方法を含めたアドバイスを行っています。 

3.検査体制

 新型コロナウイルス感染を疑う妊婦へは鼻咽頭ぬぐい液を検体としたPCR検査を行っています。なお、入院前のスクリーニング検査としてのPCR検査は行っていません。 奈良県の「新型コロナウイルス感染症の流行下における妊産婦総合対策事業」における「不安を抱える妊婦への分娩前ウイルス検査」も行っており、この場合は唾液検体としています。

4. 新型コロナウイルス感染が判明したら

 感染妊婦の情報(妊娠週数、症状、基礎疾患、妊娠合併症など)に応じて入院の必要性を判断しています。
 妊娠しているからと言って新型コロナウイルスに感染すれば必ず入院が必要というわけではありません。入院が必要ないと判断された場合でも、保健所やかかりつけ医と連携して必要な治療や健康観察を行いますのでご安心ください。

5. 新型コロナウイルス感染妊婦の治療

 新型コロナウイルス感染妊婦の治療は概ね非妊婦とかわりません。軽症の場合は自然に治ることがほとんどで、発熱、咳などの症状を緩和する治療を行います。
 しかし重症化には十分な注意が必要です。症状が重い感染妊婦に対しては感染症センターの医師と産婦人科医が連携して症例ごとに必要な治療を行います。

6. 新型コロナウイルス感染妊婦の分娩方法

 分娩には大きく分けて「経腟分娩」と「帝王切開」があります。感染妊婦の状況(妊娠週数、症状、妊娠合併症など)を考慮した上で分娩の方法を決めます。新型コロナウイルス感染症にかかった場合に帝王切開になる可能性をご理解ください。

7.診療制限について

 新型コロナウイルスに関する診療を行うために、従来行っていた診療内容を制限せざるを得ませんでした。

  • ① 妊婦の受け入れ制限
    帰省分娩、合併症を有さない妊婦などの受け入れ制限を行っています。
  • ② 外来での付き添い制限
    妊娠経過について妊婦とともに喜びや不安を共有することはとても重要なことですが、感染対策の一環として原則家族の付き添いをお断りしています。病状説明などで医師が必要と判断した場合には、この限りではありません。
  • ③ 立会い分娩および面会制限
    医療的に必要と判断されるような精神疾患や身体疾患を有する妊婦の分娩を除き、立会い分娩を制限しています。出生後の児および褥婦への面会も原則禁止としています。そのかわりではありませんが、患者の希望に応じて、携帯電話や写真を用いての分娩時の思い出作りを行っています。
  • ④ 院内助産の運用停止
    当院のメディカルバースセンターは新型コロナウイルス感染症対応のために現在運用を停止しています。

8.最後に

 多くの知見が集積されることにより少しずつ新型コロナウイルス感染症のことが分かってきていますが、未だ人類はこの感染症を制御できているとは言えません。現場では母児の安全を最優先に様々な取り組みを行っていますが、「こんなはずではなかった」「辛い、苦しい」「家族にも赤ちゃんにも申し訳ない」と涙を流す妊婦を数多く目にしてきました。何よりも新型コロナウイルス感染症にかからないことが大切です。そのためのワクチン接種、基本的な感染対策の継続をお願いします。

【NICUにおける新型コロナウイルスの対応について】

 NICUにおける新型コロナウイルス感染対策は、新型コロナウイルス陽性妊婦から出生した児の対応をどのようにするかです。感染拡大初期でまだ情報が乏しい時は、母体から児へ胎盤を介した垂直感染の可能性も考えられていましたが、徐々に情報が集まるにつれ、垂直感染は少ないことがわかり、水平感染のリスクを減らすことに重点を置きました。水平感染を予防するためには出生直後から児を母親から離して管理する必要があります。このことは母児間の愛着形成にマイナスで、母児感染のリスクと母児分離のリスクを天秤にかける選択をしなければなりません。

 我々の新型コロナウイルス陽性妊婦から出生した児への対応は、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics: AAP) 、米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)、日本周産期・新生児医学会および日本新生児成育医学会から出された指針に基づきマニュアルを作成しています。

 まず、新型コロナウイルス陽性妊婦から出生した児の取り扱いには、スタッフの確保と物品の準備に時間を要します。児の呼吸障害に対応できるように酸素や人工換気などの蘇生の準備、点滴や薬剤投与の準備、早産や先天性疾患を伴う場合など、あらゆるケースに対応できるようシミュレーションを繰り返しました。マスクやガウンを装着し、生まれた児をすみやかに蘇生台に移動し、体表の羊水や血液をタオルで拭き取ったあと閉鎖式保育器内に収容し、手術室からの移動手順やGCUでの母児同室部屋での隔離・管理方法など、分娩立会いからNICU・GCU搬送までは、産科、麻酔科と合同で実際にシミュレーションを行い、必要な物品から人の流れなどを繰り返し確認しました。

 NICUやGCU病棟は隔壁のないワンフロア空間で多数の赤ちゃんを管理しています。外部からの細菌やウイルスの侵入予防対策として陽圧換気が施されているため、新型コロナウイルス感染の隔離には適さず、別途隔離のための個室が必要です。そのため、NICU内のウイルス感染症例の収容を目的とした多目的室とGCUの退院前指導に用いる母児同室が可能な2つの個室の計3室を新型コロナウイルス陽性母体から出生した児を収容する病室とし、感染対策としてそれぞれの病室の空調を陽圧換気から陰圧換気に切り替えました。出生後、呼吸障害の無い成熟児はGCUの病室に、呼吸障害など重症の児はNICUの病室で管理することにしました。人工換気はエアロゾルを発生させるため、新型コロナウイルスに対応したフィルターを呼吸回路内に設置した人工呼吸器や人工換気用バッグを準備しました。また血液ガス分析装置や黄疸計、超音波診断装置は新型コロナウイルス専用に準備し、NICU・GCUに入院中の児と共有しないようにしました。この準備に際しては、費用面での大きな支援を頂けたことに、今も深く感謝しています。

 個人防護具は標準感染予防対策に加え飛沫感染予防対策が必要で、ガウン、手袋、ゴーグルとフェイスガード、N95マスクの着用が必要ですが、当初は慣れないため繰り返し訓練をしました。また、新型コロナウイルス陽性母体から出生した児を担当する新生児科医師や看護師は専任で治療を行うことにしました。 

 一方、奈良県全体のコロナ感染に対する周産期医療体制は、当院と奈良県総合医療センターが協働して行うことになりました。すなわち、新型コロナウイルスス陽性妊婦から出生した児は、当院には呼吸障害を有する重症例を、奈良県総合医療センターは軽症の児を収容することを基本方針として取り組むことになりました。陽性妊婦から出生した児は、感染対策が適切に行われていれば、48時間以内の2回のPCR検査が陰性であれば隔離解除になりますが、出産後に発症した褥婦と一緒にいた新生児や、児の面会者が発症していた場合は濃厚接触者になるため7日間の隔離が必要になります。

 NICUとGCUの面会は当初は母親のみ1回30分、1時間2名までの面会制限を行いました。感染状況を考慮した面会制限を続けています。

 新型コロナウイルス陽性妊婦から出生した児は、感染防止のため母児分離となることや、直接母乳を与えられないこと、母親以外の家族との面会が出来ない、などの様々な問題を解決する必要があります。近年、母児を同じ病室で管理しても適切な感染対策を行えば児への感染のリスクは高くならないこと、母乳を介した感染は極めて低いことなど新しい知見も判明しています。またWeb機能を利用した面会方法を行っています。

 今後は、家族の希望があれば母児を同じ病室で管理し、直接母乳をあげることも検討が必要です。しかし、そのためには家族への説明と十分な理解を得ることや、褥婦と新生児も看護できるスタッフや病室の確保、児への感染予防対策をどのようにするかなど、まだまだ課題が多い現状です。新型コロナウイルス感染下であっても、本来の親子の関係を保てるような取り組みを今後も模索しなければなりません。

新型コロナウイルス感染の妊産褥婦専用の病室
新型コロナウイルス感染の妊産褥婦専用の病室
新型コロナウイルス感染妊婦が母児同室するために病室
新型コロナウイルス感染妊婦が母児同室するために病室
新型コロナウイルス感染妊婦専用の分娩台
新型コロナウイルス感染妊婦専用の分娩台
NICUで治療が必要な新生児のための病室
NICUで治療が必要な新生児のための病室