小児WG

小児WGリーダー 武山雅博(小児科 准教授)

 小児WGは、小児の新型コロナウイルス感染症患者の入院病棟、幼小患者の場合の付き添い、重症化した場合の管理、小児の採血・処置、薬剤の粉砕等について各担当部署と相談・対策の検討するために立ち上げられ2020年4月に第1回目を開催しました。
第1回小児WGでは、以下のことが議論されました。

  • 年少児の患者の入院も、新型コロナウイルス感染症用病棟へ入院するが、その際には原則付き添いが必要である。
  • 新型コロナウイルス感染症用病棟が満床(あるいは満床に近い)の場合は、小児センターへ入院する。
  • 重症度や基礎疾患により小児センターへの入院が望ましければ小児センターへ優先的に入院する。
  • 小児センターでは最大8床(陰圧個室6、個室2)を新型コロナウイルス感染症用に用意する。
  • 小児患者のECMO(extracorporeal membrane oxygenation, 体外式膜型人工肺)の適応については症例毎に麻酔科医師と相談する。
  • 小児患者の診察・処置時の個人防護具(PPE)は、小児患者の場合は年齢によってマスクを正しく着けることができない事があるため、原則サージカルマスクとフェイスシールドあるいはゴーグルを着用して行う。
  • 新型コロナウイルス感染症陽性患者あるいは新型コロナウイルス感染症を疑う場合はフルPPEを着用する。
  • 新型コロナウイルス感染症に用いる薬剤の粉砕については、薬剤部でプロトコールを作成する。
  • 気管支拡張薬の吸入については、できれば定量噴霧型吸入薬を用いる。
  • 人工呼吸器はHEPAフィルターを装着して使用する。
  • 小児科では血液検体の採取に微量採血容器(マイクロティナー®)を使う事があるが、微量採血管は中央検査室の全自動の測定装置で測定できないため、感染予防の観点から新型コロナウイルス陽性患者・疑似症患者では微量採血容器を使用せず、成人用の採血容器を使用する。
    →後に、微量採血容器も使用可能になった。

通常、小児の内科的疾患の患者のほとんどは小児センターで入院をしており、主治医も小児科が行っていることがほとんどでしたので、小児の新型コロナウイルス感染症に対するいろいろな取り決めや相談は、第1回の会議以降は小児WGは開催せずに、それぞれの事例毎に直接担当部署と行いました。

以下に、小児科として新型コロナウイルス感染症に対応するために行った対策等について報告します。

小児センター北病棟の新型コロナウイルス感染症用シャワー室
図1. 小児センター北病棟の新型コロナウイルス感染症用シャワー室
小児センター北病棟の新型コロナウイルス感染症用シャワー室
図1. 小児センター北病棟の新型コロナウイルス感染症用シャワー室

図1. 小児センター北病棟の新型コロナウイルス感染症用シャワー室

小児センターへのシャワー室の設置

小児センターの病室にはシャワーが設置されておらず、通常の入院患者および付き添いの家族は共用のシャワーを使用していました。しかし、新型コロナウイルス陽性あるいは疑似症の患者は感染対策上、既存のシャワーを使用する事ができませんでした。そこで、小児センター北病棟の備品庫を改装しシャワー室を設置してもらいました。

小児センターのスタッフステーションおよび病室の整備

小児センターのスタッフステーションのカウンターと病室の通路とは仕切りのない設計でしたが、感染対策のためアクリル板のパーティションが設置されました。また、小児センター北病棟の個室の内6つ(701〜707室)は感染症用として陰圧部屋でしたので、その病室を新型コロナウイルス感染症用の病床として使用する事にしました。しかし、新型コロナウイルス感染症患者の増加に備え、北病棟の個室2つ(708および710室)の陰圧化の工事をしてもらいました。
さらに、新型コロナウイルス感染症患者が増加した場合は、北病棟全体を新型コロナウイルス感染症用病床として使用できるように、ゾーニングのシミュレーションをしました。小児センターの新型コロナウイルス感染症用病床は、病院の病床制限率や小児の他の疾患の入院患者数を鑑み、柔軟に運用を行いました。

小児センター北スタッフステーションへのパーティションの設置
図2.小児センター北スタッフステーションへのパーティションの設置

小児患者および親子入院の対応

当初、小児の新型コロナウイルス感染症患者は新型コロナウイルス感染症専用病棟に入院することが多かったですが、新型コロナウイルス感染症は成人患者が圧倒的多数であること、また新型コロナウイルス感染症専用病棟では幼小児の看護には慣れていないことから、2021年中頃からは小児の新型コロナウイルス感染症陽性患者は原則小児センターに入院していただく方針に変更になりました。幼小児の付き添いの家族(濃厚接触者)も、病室外に出ることができないため、病院食および病衣の提供、院内のコンビニエンスストアへの買い物代行を行いました。通常、小児センターの看護師は日勤夜勤とも2チーム体制での勤務でしたが、新型コロナウイルス感染症陽性・疑似症患者が入院している時は3チーム制に変更されました。
また、親子で新型コロナウイルス感染症陽性であった場合、親が軽症(〜中等症)であればその入院主治医を小児科が担当することがありましたが、成人の診療には慣れていないことが多く、感染症内科および同じ新型コロナウイルス感染症診療チームであった腎臓内科の先生方にサポートしていただきました。また、新型コロナウイルス感染症診療チームは曜日毎にその担当が決められていましたが、小児患者の場合は小児科が対応するため、その他の成人患者の対応については同じ診療チームの腎臓内科、整形外科、耳鼻咽喉・頭頸部外科に配慮していただきました。
小児は発熱や感冒症状を主訴に受診することが多く、新型コロナウイルス感染症を否定できないため、新型コロナウイルス感染症疑似症として発熱等トリアージ外来で対応する必要が多く、発熱等トリアージ外来での小児患者の診察・処置等の対応については、トリアージ外来WGとも相談をしました。後の検討で、発熱等トリアージ外来での小児患者の診察時のPPEはN95マスクとフェイスシールドあるいはゴーグルを着用、処置時はフルPPEを着用して行うことになりました。また、小児科外来での処置時もN95マスクとフェイスシールドあるいはゴーグルを着用することになりました。

在宅人工呼吸管理中の患児が入院した際の、人工呼吸器及び吸入治療の方法について

<人工呼吸器の使用について>
在宅呼吸器は閉鎖回路ではないため、エアロゾル発生による感染拡大のリスクがあります。そのため、閉鎖回路にする目的で、原則在宅呼吸からBenett 840(注1)に切り替え、回路にフィルターを装着することにしました。その際、以下の点で管理が困難になる場合があるため対策を検討しました。
①エアリークによる呼吸器アラームが頻回に鳴る場合
アラーム調整や、リークを最小限にするため気管チューブの変更(カフ付きやサイズアップ)を行い対応する。
②バッキングによる換気不良になる場合
エアリークを減らすことで改善することも多いため、気管チューブの変更カフ付きやサイズアップ)を行うか、もしくは鎮静をかけてバッキングが起こりにくい状況にする

吸入治療について>
新型コロナウイルス感染症疑似症あるいは陽性者における吸入治療は、エアロゾル発生の問題から行っていませんでした。しかし疑似症の気管支喘息発作で呼吸不全に至った症例もあったため、医学的に必要な場合に使用できる状況を検討しました。
Benett840を使用しながら吸入治療をすることは可能ですが、吸入薬の薬剤や加湿が過剰にかかることでフィルターが目詰まりする可能性があります。
対策として、①吸入治療後にフィルターを全て破棄して新しいものに交換する(合計3箇所)、②スペーサーを用いて吸入薬を噴霧し、その後用手換気を行う。の方法があげられました。
①に関しては、コストはかかりますが、エアロゾル発生のリスクは低く、医療者への感染暴露を最小限にできる。
②に関しては短時間で実施できますが、用手換気の際に、患者の呼気が一部漏れるため医療者の感染暴露のリスクがある。
従って、現時点では(2022年1月現在)、①のフィルター交換を優先する方針としました。

奈良県小児輪番制度の調整

奈良県の小児救急医療体制は輪番制度が確立されており、奈良県立医科大学小児科は3次医療機関として機能しています。しかし、新型コロナウイルス感染症流行初期は、輪番病院の設備・マンパワーの関係で新型コロナウイルス感染症陽性・疑似症患者の受け入れが困難な病院がありました。そのため、奈良県および輪番病院との会議をおこない、発熱患者の受け入れ体制の整備について検討をおこないました。また、奈良県内の小児科のある病院の先生方とメーリングリストにより、診療体制や治療方針について意見交換を行える体制を構築しました。

新型コロナウイルス感染症の凝固線溶機能に関する研究

小児科では以前より血友病などの凝固異常症の研究を盛んに行ってきました。最近では、播種性血管内凝固症候群における凝固と線溶のバランスについての研究成果を発表しました。新型コロナウイルス感染症では、血栓症合併の報告が多くなされており、小児科では新型コロナウイルス感染症における凝固・線溶機能の研究を、院内の多科のご協力を得て行っています。その成果を2021年日本血液学会(演題名; Comprehensive coagulation and fibrinolysis function in patients with COVID-19 patients: a single-center experience)で発表し、2022年2月に下記論文としてInternational Journal of Hematologyに掲載されました。
The balance of comprehensive coagulation and fibrinolytic potential is disrupted in patients with moderate to severe COVID-19.
Onishi T, Shimonishi N, Takeyama M, Furukawa S, Ogiwara K, Nakajima Y, Kasahara K, Nishio K, Yoshimoto K, Inoue S, Kawaguchi M, Fukushima H, Saito Y, Yoshiji H, Muro S, Tsuruya K, Okada S, Sugie K, Kawaguchi R, Nishikubo T, Yamazaki M, Oda Y, Kawabe T, Onishi K, Nishio T, Nogami K.
Int J Hematol. 2022 Feb 16:1-12. doi: 10.1007/s12185-022-03308-w.

注1:Benett 840・・・人工呼吸器