MBTコンソーシアムとの連携・新型コロナ感染対策の研究成果

 先端研究部会は、本学単独で新型コロナウイルス感染症の克服を目指すのではなく、MBTコンソーシアムに加盟する企業・団体と共同で取り組むこととしました。これは、他の医科大学・医学部とまったく異なるスタンスです。
 以下に、先端研究部会とMBTコンソーシアムが協力して進めた新型コロナ対策を紹介します。

1)新型コロナ対応の「MBT感染症外来ユニット」の開発

MBT感染症外来ユニット
ユニットの鳥観図

 2009年の新型インフルエンザ・パンデミックの際、MBTの前身といえる本学住居医学講座がMBTコンソーシアムに加盟する大和ハウス工業株式会社と共同開発していたプレハブ型の発熱外来施設を、最新の除菌やICTおよび建築技術を導入し今回の新型コロナウイルス感染症対策に役立つ施設にリニューアルしました。
 プレハブ建築であるため、病院の空き地や駐車場に短期間で設置することができ、今回の新型コロナ対策で緊急的に使用され始めた仮設テントと違って冷暖房完備で厳しい気候条件にも耐えられます。
 病院の外に設置するので、新型コロナウイルス感染症の疑い患者とその他の患者を分離することが可能です。またユニット内部でも患者と医療スタッフの導線を分離しており、接触する箇所を最小限とした設計が大きな特徴です。

MBT感染症外来ユニット(奈良市医師会)
ユニットの外観

本学及びMBTコンソーシアムは本研究成果を「MBT感染症外来ユニット」として提案書にまとめ上げ、全国の大病院や自治体約260か所に郵送しました。さっそく奈良市医師会が導入し、実運用を開始しています。

2)世界初、オゾンによる新型コロナウイルスの不活化を発表

 2020年5月に、「オゾンによる新型コロナウイルス不活化」を世界で初めて確認したことを、記者発表しました。

記者会見
記者会見の様子
記者会見
記者会見の様子

 
 MBTコンソーシアムに加盟する株式会社タムラテコが製造するオゾン発生器を使用して、気密ボックス内に塗布した新型コロナウイルスにいくつかの条件下でオゾンガスを曝露して効果を検証したところ、6ppmのオゾンガスを約1時間噴霧すると、感染力を持つウイルスの数が1万分の1程度にまで、減少することが確認できました。

実験中の様子
オゾンガス試験の様子

 この成果は世界で初めて確認されたものであり、オゾンガスの濃度や曝露時間など、新型コロナウイルスを不活化できる条件を明らかにしたことにより、実際に医療現場やオフィス、飲食店などの空間を除菌する際に使用できる実用性を学問的に示したものといえます。
 患者さんが部屋から退出した後、オゾンガス発生装置を稼働させるだけで消毒することができるため、大幅な負担減につながります。病院や介護施設、店舗、宿泊施設などの部屋の消毒や器具・機材の消毒が効率的に行えるようになると考えています。

 また、本研究成果の発表後、オゾン機器やそれに類似したウイルス不活化製品を製造販売する企業から新型コロナウイルス不活化試験の依頼が数多く寄せられ、その数は優に200社を超えるまでになりました。様々な試験品の不活化研究を企業とともに実施し数多くの研究成果を出しております。

3)3密回避より本質的な対策として「3感染ルート遮断」を提唱

 本学およびMBTコンソーシアムは、政府が推進している「3密回避」より本質的な「接触」、「飛沫」、「エアロゾル」の「3感染ルート遮断」という感染対策を前面に打ち出しています。
 換気の悪い「密閉」、多人数が集まる「密集」、間近で会話や発声をする「密接」を避けるという対策は、確かに集団感染が発生しやすい状態を避ける行動ですが、それを100%守っても、100%感染が防げるわけではありません。3密と思われていても、クラスターが発生していない業種もあります。客が同じ方向を向いて座り、ほとんど会話をしないなど、飛沫がかかりにくい状態を保ち、接触部分の消毒や空間の換気が十分であれば、密であっても感染リスクは低いからです。
 3つのルートを適切な方法で遮断することが、本質的な対策であり、理論上はこれを100%実行することができれば、100%感染防止ができると考えられます。

3感染ルート遮断の環境整備例
3感染ルート遮断の環境整備例

4)附属病院のコーヒーショップをMBTコロナ対策モデル店舗に

 Withコロナの時代では、飲食店等はお客さん自身が自分の身を守れるような設備を整える必要があります。そういう設備を整えた店にはMBTマークを付与しています。街でMBTマークを付けているお店を見かけられたら、「3感染ルート遮断」というMBTの基準に沿った対策を行っている店だと考えてください。
 MBTが提唱する「3感染ルート遮断」については、モデル店舗をつくり、実践してもらっています。

各テーブルにアルコールを配置
各テーブルにアルコールを配置
MBTコロナ対策ポスターの掲示
MBTコロナ対策ポスターの掲示

 最初に、附属病院内のコーヒーショップに協力してもらい、セルフサービス飲食店のモデルを示しました。各テーブルに消毒薬や消毒ティッシュを配置し、客自身が食べる直前に手指消毒や十分なテーブルの消毒ができるようにしたほか、飛沫感染の原因となる大声を出さなくてすむようにBGMのボリュームを落としています。また、こうした店舗でMBTで効果検証した感染対策製品、例えばエアコンに抗菌加工フィルターを実際に導入するといったことも始めています。「3感染ルート遮断」の啓発パンフレットを置き、「MBTコロナ対策」のポスターも掲示しました。
 ホテルでは、MBTコンソーシアム会員企業の大和リゾート(株)THE KASHIHARAのレストランが最初のモデルとなり、やはり全テーブルに消毒液とウェットティッシュを置いて、お客さんが自ら手指消毒やテーブル消毒ができる環境を整備。対面する座席には、飛沫防止用にアクリル製仕切り板の配置としました。
 クオール薬局梅田ガーデン店は、薬局のモデル店舗となりました。待合の全椅子にも消毒液を置いたほか、薬のお渡し口には飛沫防止用のアクリル製仕切り板を設置した上で、消毒液やウェットティッシュも配置し、「3感染ルート遮断」の考え方を進めています。

5)MBTコロナ対策企業相談事業をスタート

 蔓延するコロナ禍で、MBTコンソーシアムの会員企業から「自社で実施している、あるいは実施しようとしている新型コロナ対策が医学的に正しいかどうか教えてほしい」という要望が多数寄せられました。そこで、本学およびMBTコンソーシアムは新型コロナウイルス感染症の一刻も早い終息と活発な企業活動や経済の復活を願う社会貢献の一環として、本学の感染症専門医の医学的知識を基に、無料の個別相談事業をスタートさせました。例えば、オフィスや店舗の感染対策をどうするか、イベントを開く際はどんな対策を行えばよいかなど、個別の案件に対して無料でアドバイスするという事業です。前述の「3感染ルート遮断」のモデル店舗もこの事業の一環です。
 企業や団体からの依頼があると、本学MBT研究所が窓口となって、感染症センター長の笠原敬病院教授を中心とした専門家チームにつなぎ、リモート会議システムで相談を受けて助言します。場合によっては、専門家が現地に出向き、従業員やスタッフへの感染対策基本講義、現場の状況を調査した上での直接的な対策提案や助言も行っています。
 MBT研究所には、奈良県の観光関連の業種、学校、地元企業や団体を中心に次々と相談が寄せられました。
 主な内容としては、新型コロナウイルス感染対策ガイドラインを作成するための助言、イベント会場での感染防止対策に対する注意点や助言、感染対策を踏まえた安全行動基準の監修、ホテル及びレストランでの感染対策の指導、教会でのミサにおける感染対策の相談など、多業種で多岐にわたるものでした。その中からいくつか事例を紹介します。
 日本経済新聞社からは、大阪のハービスホールで開催するイベントについての相談がありました。このイベントは、学生らが将来の夢や社会貢献、研究成果などを発表するもので、14チームが参加。当初から感染防止対策として、会場発表とオンライン発表を交えての形になっていましたが、それでもスタッフを含めると会場だけで100人規模になるため、会場での感染対策について助言を求められました。
 これに対し、本学は、笠原先生とMBT研究所がオンライン会議システムで相談に対応しました。オンライン会議では、会場平面図で参加者、スタッフの動線を確認し、3感染ルート遮断の考え方に基づいて細かくアドバイスを行いました。
 例えば、会場入口での体温チェック、マスクチェック、会場での席に十分な間隔をあけるといったことは当然ですが、受付までのアプローチで床に間隔をあける表示を行うこと、演台をアクリルカバーで囲み、発表者は使い捨てフェイスマスクを着け、マイクを個人ごとに用意。発表後は司会者の後ろに置いた消毒液で手指消毒してから席に戻るといった細部まで指導しました。
 こうした助言に従って、イベントは無事に実施できました。さらに当日は会場数か所にMBTコロナ対策ポスターを貼り、MBTコロナ対策パンフレットも配布しました。
 東大寺からは、毎年3月に開催されている伝統行事「修二会」を安全に終えたいということで新型コロナウイルス感染対策の相談を受けました。東大寺の修二会は、すべての生き物の幸せを祈る伝統行事で、752年に始まって以来、戦時中も途切れることなく続いており、2021年には1270回目を迎えた重要宗教行事です。

感染対策指導を撮影する報道局
感染対策指導を撮影する報道局
東大寺での感染対策打ち合わせの様子
東大寺での感染対策打ち合わせの様子

 これに応えて、笠原先生はスタッフと共に東大寺を訪問し、修二会の行事と現地の状況を細かく調査し、総合的なアドバイスを行うことにしました。第1回の検討会議は、本学から笠原先生が、東大寺から狭川普文別当をはじめ幹部が出席して実施しました。修二会では、修行増11人、三役8人、童子や仲間と呼ばれる世話係、食事や風呂の準備係なども含めると総勢39人が、準備や前行を行う2月中旬から本行を終える3月中旬までの厳冬期約1か月間を、合宿しながらともに過ごすことになります。ここからクラスターを発生させないように、感染防止対策を検討しました。修二会の期間中は、例年、二月堂の下に大勢の参拝者が詰めかけるため、その感染防止策も必要です。検討会では笠原先生が、東大寺の説明を受けながらいくつもの現場を細かく調査し、それを持ち帰って、さまざまな感染防止策を立案して提案しました。
 またこの取り組みはNHK奈良放送局の取材も行われました。

 これまでに実施した新型コロナウイルス感染対策相談を一冊のパンフレットにまとめました。是非下記からご覧ください。

6)東大寺でMBTコロナ対策Web座談会を開催

座談会の様子
座談会の様子
QRコード(座談会)

 2021年1月には、東大寺の修二会に先立ち、東大寺の狭川別当をゲストに、細井理事長、笠原先生とで「MBTコロナ対策Web座談会」を開催して、東大寺の会場から、YouTubeで配信しました。
 座談会は、細井理事長が聞き手として進行を担当し、東大寺の創建や修二会にまつわる歴史を狭川別当が、また、感染症にまつわる医学的解説や対策を笠原先生が発言する、という内容で進められました。
座談会の模様はオンデマンドでYoutubeから視聴できます。

7)世界初!柿渋の新型コロナウイルス不活化効果を確認

柿タンニン
研究に使用する柿タンニン

 新型コロナウイルスの不活化研究はさらに加速しています。2020年9月には、本学とMBTコンソーシアムが共同で、オゾンに続いて、柿渋に含まれる柿タンニンが新型コロナウイルスを不活化するという、やはり世界初の研究成果を記者発表しました。
 オゾンの不活化研究との大きな違いは、柿渋は食品としての使用を前提に、新型コロナウイルス不活化効果を研究するということです。できればヒトを対象とした臨床研究で検証したいですが、ヒトや動物を使って予防効果を実証するには大規模かつ時間のかかる試験になるため、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行状況から、とにかく結果をいち早く出して、社会に還元したいとの思いから、まず、試験管内で実験を行って発表しました。
 試験は、口腔内に類似した条件にするため、唾液のみが入った試験管に新型コロナウイルスを入れた場合と、唾液プラス高純度柿タンニンが入った試験管に新型コロナウイルスを入れた場合の2群を比較しました。その結果、唾液のみの場合はあまり変化がなかったのですが、唾液プラス高濃度柿タンニンの場合は新型コロナウイルスを1万分の1以下に不活化させることを確認しました。ヒトの口腔内においても、新型コロナウイルスの不活化が起こる可能性を示唆しているものと考えられます。不活化には、一定濃度以上の柿タンニンと新型コロナウイルスが一定時間、試験管内で共存する必要があることが分かりました。つまり、適量の柿タンニンを配合した飴やガムを口腔内に一定時間とどめておくことによって、口腔内の新型コロナウイルスが不活化される可能性があると考えられます。
 この研究成果を社会に還元するためには商品にしなくてはなりません。医学的なエビデンスは本学における実験で示していますが、高濃度の柿渋を含んだ上で、美味しい飴などの食品を開発するには経験豊富な企業のノウハウが必要です。そこでパートナー企業を募集したところ、約50社の企業が名乗りを上げてくれました。最終的には数社に絞り込んで共同研究を実施し、のど飴・キャンディ・タブレットなどの形として開発・販売されています。

8)世界で初めてお茶の新型コロナウイルス不活化効果を確認

お茶不活化グラフ
お茶の製品別感染価

 さらに、2020年11月には、市販されている緑茶や紅茶などにも、新型コロナウイルス不活化に効果があることを記者発表しました。
 実験では試験管の中で常温のお茶にウイルス培養液を混ぜて、時間の経過とともにウイルスの不活化状態をプラーク法という方法でウイルス感染価を算出して評価しました。その結果、緑茶と紅茶が新型コロナウイルスを不活化することを確認しました。また、お茶の種類・銘柄により不活化効果に差があることも分かりました。
 お茶による新型コロナウイルス不活化を確認したのも、本学が世界初です。既に製品化されたお茶が新型コロナウイルス不活化に有用であるなら、マスクを外して食事をせざるを得ない外食時のコロナ感染対策にお茶を飲めば役に立つのではないでしょうか。

9)MBTコンソーシアム会員企業とコロナに有効なマスクを開発

 また、会員企業とともに新型コロナウイルスを迅速に不活化するマスクも開発しました。会員企業であるやまと真空工業株式会社は工業製品ものづくりで蓄積された真空蒸着プロセスのノウハウをもっています。本学は長年の微生物感染症研究の蓄積により、新型コロナウイルス不活化についての知見を有しており、両者の技術と医学知識が融合され、銅合金蒸着マスクを開発することができました。

マスク
開発した銅合金蒸着マスク

 このマスクは、銅合金を不織布に蒸着したものでありマスク表面についた新型コロナウイルスを、30秒で約千分の1、1分で約10万分の1と圧倒的な速さで不活化することが可能です。このマスクを使用することにより、飛沫感染や、マスクに誤って触れた手指からの接触感染リスクを大幅に低減することが可能です。

10)MBTコロナ対策のための模擬立食パーティーを開催

 最後に紹介させていただくのは、コロナ克服の一環として開催した「感染を防ぐための模擬立食パーティー〜ホテル・レストラン新時代への挑戦〜」です。

会場
パーティーホールの様子

 本学とMBTコンソーシアムはMBTコロナ対策・企業相談を継続し、特に飲食業、ホテル業、観光業などを多数指導してきました。これからの時代のホテル・レストランは、味や雰囲気に加えて、「安心」が選ばれるための要素になるとの認識のもと、これまでの相談事業で得た経験やMBTコンソーシアム会員企業から持ち込まれた感染対策のアイデアを集大成し、アルコール提供は無く、人数制限した模擬立食パーティーを奈良ホテルで開催しました。全国の有名ホテルとマスコミ関係者、さらに観光・旅行業者、奈良の社寺仏閣、商店街など60名程を招待しました。

ミラー
ミラー越しに会話をする様子

 模擬立食パーティーで提案した感染対策は、全部で28種類ありましたが、その中から有力なアイデアを紹介します。
 テーブルに横並びで会話するシーンは、近い距離で横にいる相手の表情をうかがってしまうので飛沫・エアロゾル感染のリスクが高いです。そのため、テーブルにミラーを設置し、正面を向いたまま反射画面で相手の表情を見えるようにしました。その他、会場各所に多数のアルコール消毒液、アルコールウェットシートを配置。各自が手指消毒、接触感染防止を行える環境を整えるとともに、エアロゾル感染対策として、低濃度オゾンガスなどを用いて空間消毒を実施し、CO濃度も測定しました。
 模擬立食パーティーの後、参加者には提案した28の対策、アイデアについて評価を聞き、改善策を議論してもらうとともに、新しいアイデアも募り、マスコミを通じて全国に発信しました。