コロナ禍における手術対応

中央手術部 中瀬裕之、川口昌彦、北口千寿子、堀川勝代

 2020年1月に本邦で初めてCOVID-19患者が報告され、以降、感染状況は悪化と収束を繰り返し、現在、新たな変異株「オミクロン株」によりこれまでの経験を大きく上回る感染拡大が世界的に進んでいます。「第6波」です。ワクチン接種や新たな治療薬の開発と臨床応用が進みつつありますが、まだまだ先が見えない状況です。今回、コロナ禍の中央手術部の対応をこれまでのメールのやりとりや記憶を思い出しながら記述しました。

初期の状況と対応(資材の不足、PCR検査)

 2020年1月16日に本邦初の感染が発表され、2月13日には初の死者が出ました。3月下旬からは感染者が急増し「第1波」と言われました。中央手術部では、3月頃からガーゼおよび滅菌ガウン、手袋について不足が懸念されるようになりました。この段階では病院管理課 用度係を通じて在庫および流通について心配がないと返事をいただいていましたが、ガーゼなどについては原材料が中国なので、この状況が続けばどのようになるかわからないということでした。また、滅菌ガウンの不足が予想されたため、一時期は布ガウンを使用しました。手術患者のPCR検査に関しては、2020年の当初からいくつかの大学病院ですべての手術患者のPCRを行うと聞きましたので、当院でも全手術患者のPCR検査を検討しましたが、PCR検査のキャパシティの問題や当時のPCR検査の感度・特異度の問題などがあり、現実的には難しいとの結論となり断念しました。そのかわりに、耳鼻咽喉・頭頸部外科、口腔外科、下垂体手術を行う高リスク患者のPCR検査を実施することになりました(図1)。また、中央手術部では当初から麻酔の挿管・抜管時の対応の議論がありました。学会のガイドラインでは、挿管・抜管時のN95マスク着用が推奨されていましたが、院内ではまだN95マスクは使用していませんでした。麻酔科からは、「手術室入室時にマスクを装着し、術中はそのマスクを保管し、抜管後にすぐに再度、そのマスクを装着し、その上から酸素マスクをしてはどうか」という提案がありましたが、術後については特に徹底されていない状況でした。その後は、手術室における挿管・抜管時のエアロゾル対策として、① 待機する外科医やその他のスタッフは室外に退避、② やむを得ず室内に滞在する場合はN95マスクを着用することになりました。

図1 ハイリスク例に対する術前PCR検査の外注へ依頼する手順
図1 ハイリスク例に対する術前PCR検査の外注へ依頼する手順

他職種合同のシミュレーションと陰圧室への変更

 新型コロナウイルス陽性患者の緊急手術受け入れに対応するため、手術部・麻酔科・診療科・臨床工学技士・診療放射線技師・手術部薬剤師・感染管理室が合同で数回のシミュレーションを行い、手術室の環境設定・準備、患者入室から手術中、退室後の感染対策の手順を策定しました(図2-1, 2-2)。またFull-PPE着脱手順など必要な情報を周知するために手術室前に掲示し、周知に努めました。4月24日、最初の新型コロナウイルス疑似症患者の緊急手術の受け入れを行いましたが、大きな混乱はなく、感染予防対策を実施しながら安全に手術を遂行することができました。また、新型コロナウイルス陽性患者の手術受け入れに際しては、既存のRoom8で空調を陰圧設定に切り替えて感染対策を行いながら手術を行っていましたが、増えると予想されるコロナ陽性(疑似症を含む)患者の手術に即時に対応できるように15室ある手術室のうちRoom6とハイブリット室の2室を陰圧に切り替えることができるように設定しました。なお、2020年4月から2021年11月まで、中央手術部でFull-PPEで対応した症例は、新型コロナウイルス陽性確定例(10例)と疑似症(26例)の計36例でした。

図2-1 コロナ手術対応(部屋準備~退出まで)
図2-1 コロナ手術対応(部屋準備~退出まで)
図2-2 他職種合同のシミュレーション
図2-2 他職種合同のシミュレーション

予定手術枠の制限と手術数

さて、4月に入って、防護具(PPE)が不足し手術着をICUのコロナ対策に使用する状況になってきました。この頃から防護具などの準備状態と手術件数を連動させていく必要性を感じていました。その後、「緊急事態宣言」が発出され、手術枠減少の議論が始まりました。各診療科には、(がんや急性疾患の手術は優先しながらも)不急の手術の延期を実施していただいていましたが、(せいぜい2割程度が減少しただけで)8割稼働が続いていました。また、多くの手術を延期いただいている科とあまり削減のない科があり、日によってもかなりのばらつきがあり、手術部全体として統一する必要性を感じました。そのため、中央手術部連絡委員会委員と手術対策プロジェクト会議委員にメールで連絡し審議した結果、4月20日から手術予定枠を一律5割に削減にすることになりました(図3-1)。この後、現在まで感染状況に応じて計12回の変更を繰り返すことになりましたが(図3-2)、毎回、中央手術部連絡委員会委員と手術対策プロジェクト会議委員にはメールで連絡、可能な時は対面で審議させていただきました。感染の状況が落ち着いてきた5月22日から7割とし、6月8日からは局所麻酔(自科麻酔)枠について(ICU入室がないため)一部制限を解除し、7割+自科麻酔枠としました。そして、11月末までは8割で運用していました。驚いたことに、11月の手術室の手術収入額は(8割稼働にも関わらず)昨年度の収入より3%多くなりました。これは、手術単価がそれだけ高くなっている証拠であり、手術がかなり効率的に運用されてきていると感じました。その後、病院から「感染拡大期となりコロナ病床115床確保のため、11月27日までに病床70%へ、12月8日までに病床60%へ調整」という連絡があり、11月30日から7割、さらに12月14日から5割運用となりました。2021年の3月15日から7割運用に戻りましたが、病院から再度「コロナ患者急増のため、病棟稼働率と手術枠6割へ削減、B7のコロナ病棟への変更」の連絡があり、4月19日(月)から「5割+オープン枠1列+自科麻酔」へ変更しました。なお、手術プロジェクトとして令和2年度の手術数の目標は8900件(年間を通算しての手術枠稼働制限71.1%となり目標値を補正すると年間6300件)で、実際の手術件数6653件は目標を十分に達成しておりました(図3-3)。2021年度後半は7割の手術予定枠でしたが、手術件数・診療報酬とも8割稼働と同水準の手術を行っていただいています。
 さて、令和3年4月に院内で人事異動があり、堀川勝代師長が医療安全推進室に異動されました。堀川師長にはコロナ禍という経験したことのない危機に対して柔軟に対応していただき感謝しています。後任として北口千寿子師長が着任されました。6月に入って、病院の担当部署から「コロナ患者の減少を受けて、病棟7割稼働を予定」との連絡があり、6月28日から7割+自科麻酔となりました。11月に入って再度病院の担当部署から「コロナ患者減少に伴い、12月初旬をめどに病床稼働率と手術枠を80%にします」と連絡があり、12月6日からの8割+自科麻酔枠で運用しました。年が明けて令和4年1月6日に、病院の担当部署から「オミクロン株の影響により患者の増加が予想されるため、現在のコロナ病床35床から80床運用に戻し、稼働率を7割としますので、中央手術部の予定手術枠をできるだけ早く7割運用にしてください」と連絡があり、急な変更で混乱も予想されましたが、1月17日(月)から7割枠運用を実施しなければならない状況になり、現在も続いています。これで12回目の変更です。この間、すべての診療科において手術待機患者が増え、大変な思いをされていると思います。

図3-1 予定手術5割枠(令和2年4月23日~)
図3-1 予定手術5割枠(令和2年4月23日~)
図3-2 手術予定枠の変化
図3-2 手術予定枠の変化
図3-3 令和2年(2020年)度の予定手術枠と手術件数
図3-3 令和2年(2020年)度の予定手術枠と手術件数

恐れていた事態の発生

 常にスタッフにコロナ陽性患者が出た場合の対応についての危機感を持っていました。問題が起きた場合は感染管理室に相談し、陽性者の状況(自覚症状の程度)と行動範囲により、誰を休ませるのか手術をどこまで運営するかを感染管理室・保健所・手術部で協議し決定することになります。2022年1月に恐れていた事態が起りました。手術を行っていた外科系医師からPCR陽性が出ました。同手術室で関連するスタッフは、診療科医師3~4名・麻酔科:3~4名(学生1名)・看護師3名とのことでした。濃厚接触になるかどうかを感染管理室で協議されましたが、両者ともマスクをしており、PCR陽性医師はサインイン(注)と体位固定時に同室者とかかわっている程度であり、濃厚接触の定義にはあてはまらないだろうとのことでした。また、該当医師が使用したロッカーの特定を行いました。該当医師の使用後に、複数の医師がそのロッカーに白衣を入れていたため、その白衣は2週間密閉することとなりました。手術室の封鎖は必要ないとのことで、清掃・消毒後に通常どおり使用しました。最終的に、感染管理室より連絡があり、担当スタッフ(麻酔科・看護師・外科系医師)はすべて濃厚接触ではなく、PCRは不要で2週間の健康チエックを継続とのことでした。このようにスタッフから陽性が出ると大変です。引き続き、感染予防強化(健康チエック・アイシールド・挿管抜管時のN95・外科医の退避)を啓発し、感染予防対策を継続することが重要と考えています。

最後に

中央手術部として医師・メディカルスタッフ・事務・委託業者・器械メーカー業者など多数の人の出入りがあったにもかかわらず、『全ての職種がチームを組み安全で安心の手術を提供します』の手術部理念の元、職員が一致団結してこれまで院内感染を起こさずにこれました。今後も油断することなく気を引き締めて感染対策に取り組んでいかなければならないと思っています。

(注)サインイン…手術室入室時