入院診療ワーキンググループおよび入退院支援センター

WGリーダー 藤本清秀(泌尿器科学 教授)
谷口弘美(入退院支援センター)

 奈良県では2020年1月28日に、国内では6例目、武漢渡航歴のない人では初めての新型コロナウイルス感染症陽性患者が発生しました。直ちに、本学理事長から「万一、本学の教職員が新型コロナウイルスに感染し、あるいは感染を拡大させるようなことがあれば、本学の教育・研究・診療の業務に甚大な悪影響を及ぼすばかりではなく、その行為は奈良県民ひいては日本国民に対して非常に大きな責任を負うことになる」という厳しいメッセージが発信され、私たちのマスク着用の社会活動自粛生活が始まりました。

 4月1日には法人内に「新型コロナウイルス感染症対策本部」、その下部組織として「病院部会」が設置され、病床稼働を70%に抑え、診療制限として①初診予約の受付停止②再診の延期や他院紹介③予約なし受診の停止④検査の延期⑤入院の延期⑥手術の延期⑦他病院への転院⑧他病棟への移動⑨早期の退院という方針を打ち出されました。その後、県内での感染拡大に伴い、入院患者の更なる増加が予測され、県から新型コロナウイルス感染症重点医療機関として、重症用9床を含む150床の確保を要請されました。新型コロナウイルス感染症専用病棟として感染症センター、バースセンター、C棟8階、5月1日からはB棟7階、5月7日からB棟6階に新型コロナウイルス感染症用病床を開設しました。同時に150床の病床確保及び重症患者への対応のために、手術・検査、外来診療も50%に縮小し、病床稼働率は50%に制限されました。看護部には、県内の重症患者の受け入れのための体制整備が求められ、集中治療部(ICU)勤務経験者を抽出し、順次、応援できる体制を構築しました。応援看護師は10年以上のブランクがあるにもかかわらず、短期間のon the job trainingで受け持ちが可能であり、看護師の柔軟性と実践力の高さが示されました。

 4月27日には当院の入院患者1名が新型コロナウイルスに感染していることが判明し、緊急対策会議が開催されました。濃厚接触者にあたる職員13名は全員PCR検査をうけ、2週間の出勤停止、当該病棟への入退院自粛になるなど、一気に緊迫感が増しました。こうしたことから玄関前での健康チェックや感染予防対策、面会制限は一層強く意識されることになりました。「うつらない、うつさない」という原則のもと、「3密+3感染ルートの遮断」を回避するために会議や研修はWeb開催が主流となりました。また、医療用マスクやPPEが枯渇する事態もありましたが、レインコートの代用など創意工夫で何とか第1波を乗り切りました。

 6月には感染状況も落ち着きと取り戻し、新型コロナウイルス感染症用確保病床は重症用5床を含む57床となり、病床稼働率は6月1日から70%、6月21日から85%へと改善しました。この頃、新型コロナウイルス感染症のみならず、新興感染症にも対応できる医療提供体制を構築するために、病床再編の方針が打ち出されました。その基本方針は①「診療制限時(85%稼働)にC8病棟を完全空けることができる体制とする」②「現行の割当病床数、2019年度の稼働病床数又は2020年度の診療科目標数を基準に病床数を設定する」③「割当病床数については、今後年度ごとに前年度の稼働状況及び当該年度の診療科目標を踏まえ見直しを行う」となっています。全科全床を強く認識するよう、①「割当病床は、各科に一定割り振った病床数の基準であり、各科が保有している病床ではないことを認識し、入退院支援センターから他科の患者の受入を要請された病棟は、依頼に応じることを原則とする」、②「各診療科の割当病床を超えて、入院を受け入れなければならない時は、共用病床を使用することになるが、共用病床には許可届出上一定数(全体で14床)の重症用ベッドが含まれている」という2点の理解共有が徹底されました。これらのことから、入院患者を受け入れる際の病床の選択順については、各診療科の割当病床→共用病床(重症用以外)→各診療科の割当病床の内、空いている病床→共用病床(重症用ベッド)』となりました。

 7月初めから再度、感染拡大を認め、いわゆる第2波では全国の新規感染者は8月初旬にピークを迎え、当院の病床稼働も8月21日から再び75%に制限されました。秋から冬には、気温が下がるとともに感染拡大のペースは速くなり、重症化するリスクが高く、高齢者の割合が増える傾向がみられました。さらに、クラスターの発生が外国人コミュニティーや医療機関、福祉施設等と多様化しました。県からは新型コロナウイルス感染症用病床については、重症9床を含む115床確保が要請され、11月27日から70%稼働、12月8日からはさらに60%稼働へと制限されました。

 2021年に年が変わると、新規感染者および重症者は一層の増加を認め、1月初旬に全国の新規感染者数は第3波のピークを迎えました。当院では更なる面会制限の強化を図り、また新型コロナウイルス感染症専用重症病床を12月28日には11床、12月30日には13床、2月27日から14床確保することになりました。人流の制限、社会活動の制限により一時的に感染の猛威が緩み、3月8日から再度、70%稼働となりましたが、4月5日には宮城県・大阪府・兵庫県に「まん延防止等重点措置」が出され、4月19日から再び60%稼働へと制限し、5月のゴールデンウィーク明けには第4波のピークを迎えました。このころの感染の主体は英国で見つかった変異ウイルスのアルファ株で従来ウイルスよりも感染力が強いとされました。6月21日から新型コロナウイルス感染症用確保病床は80床から57床へ、重症用病床を14床から12床へと変更しました。しかし7月に入ると再び感染は急拡大し、新型コロナウイルス感染症の影響で今夏に延期された「東京オリンピック2020」の開幕まであと僅かの時期でしたが、これが第5波の始まりでした。第5波はアルファ株以上に感染力が強いとされるインド由来のデルタ株の猛威が影響しました。第4波までと比較しても新規感染者数の増加がみられ、県からは奈良県下のすべての病院に新型コロナウイルス感染症専門病床を確保するように要請がありました。65歳以上のワクチン接種が進んでいたため新規感染患者の年齢層は50歳以下の中高年、若年層へと変化しましたが、40~50代の基礎疾患を持つ患者の重症化が増加し、当院でも8月7日から重症用病床を14床に増加し、重症系病棟への応援体制を継続・強化しました。65歳以下にもワクチン接種がいきわたったこと、抗体カクテル療法が承認されたことなどから徐々に感染者の減少を認め、12月1日からは再び新型コロナウイルス感染症専用病床35床確保の病床稼働80%へと制限を解除しました。

 2020年1月に新型コロナウイルス感染症陽性患者が発生してから約2年、新型コロナウイルス感染症専用病床を確保するために入院制限を実施し、その度に、呼吸器内科、感染制御内科及び消化器内科の患者は他病棟へ入院することになりました。感染状況が落ち着くと稼働率を上げ、悪化してくると稼働率を下げるという状況が何度となく訪れました。漸く病床のコントロールが軌道に乗ってきたなと思うと、次の波が訪れ指定された稼働率に戻るまでに2~3週間かかりました。稼働制限が厳しくなる度に何度も各診療科への協力依頼を行いながら、なんとか第5波までを乗り越えてきました。また、奈良県下のすべての病院に新型コロナウイルス感染症専用病床の確保要請後は、後方支援病院の受入れ許容量が減少し、なかなか転院先が決まらないなど転院調整に難渋し、「断らない医療」を実践する当院は非常に困難な状況に陥りました。

 2022年1月現在、オミクロン株の今後の感染拡大は予断を許さない状況で緊張を覚えます。再度、新型コロナウイルス感染症専用病床の確保、重症系応援体制の整備、感染防止対策の強化で、既に始まり始めた第6波に備える必要があります。最後に、病棟が分散したC棟8階、B棟7階、B棟6階の各病棟・診療科の医師、看護師、事務の皆様のご理解とご協力に心より感謝申し上げます。また、ご不便やご迷惑をお掛けした多くの患者さんとそのご家族様にはお詫びを申し上げ、当院でお亡くなりになられた新型コロナ感染症の患者さんとそのご家族様にも謹んで哀悼の意を表します。

(文書作成:谷口弘美/藤本清秀)

確保病床数の推移
新型コロナ病床確保の推移

確保病床数、重症用病床数、入院患者数の制限および手術件数の制限についての推移を示しています。コロナ患者受け入れに伴う診療全般に対する制限措置を示しています。