医療材料の調達と供給

病院管理課

新型コロナウイルスの脅威に直に向き合い、検査や治療に専念している医療従事者を感染から守るために、感染対策物品の確保に奔走した日々を振り返って

サージカルマスク編

「マスクの使用は、1週間で1人1枚まで!」 この通知を出す寸前でした。

2020年2月、感染の広がりとともに、サージカルマスクやアルコール消毒液が全国各地で品薄となり、当院も例外ではなく、様々な医療材料が不足しました。幸い当院では在庫が枯渇することはありませんでしたが、マスクが1日約2千枚使用されており、供給不安定は必至でした。

タイミングの悪いことに、その年の1月に安価なサージカルマスクに切り替えたため、切り替え後のメーカーは、たちまち供給不安定となり、供給停止となりました。そこで以前のメーカーに再度頭を下げ、供給を再開してもらった苦い思い出があります。

ただし、その後も入荷しては、払い出しの繰り返しの自転車操業で、すぐに在庫が尽きていきました。在庫量を確保するために、部署ごとの使用量に見合った払い出し制限を行いました。結果として、部署からの過剰な請求は無くなりましたが、部署同士で払い出し量の比較をされ、その都度、説明対応に苦慮しました。

当時の看護副部長が各病棟を巡回して、余裕のある在庫を見つけては回収、また巡回して見つけては回収してくださったことが、季節外れのサンタクロースのように思えました。                                                                                              

ニトリルグローブ編

サージカルマスク以上に在庫の確保に苦慮したのがニトリルグローブ(注)です。当院ではXS~Lサイズまで各サイズ合算で、1日4~5万枚を払い出しています。

ニトリルグローブは、東南アジアや中国での生産がほとんどでコロナの影響を大きく受けました。メーカーに在庫があっても、全国の医療機関から注文が殺到し、出荷調整に時間を要するため、供給遅延が発生して代替品の確保が求められました。代替品といっても、雨合羽やレインコートはガウンに、防護メガネはゴーグルに代わりが利きますが、軍手がグローブの代替となるはずもなく、グローブに取って代わるのは素材の違うグローブしかありません。しかし、メーカーは現在供給している医療機関を守る(優先する)ため、新規では注文を受け付けません。医療材料メーカーに限らず、日用品や食品衛生用のグローブ会社を探し出すことで在庫の確保ができました。

ガウン編

ガウンも海外生産のため、すぐに供給不安定となりました。感染管理室と代替品を協議した結果、雨合羽や大きなビニール袋を購入することになりました。先生方の協力により、雨合羽は2万枚、また台湾製ガウン3千枚を確保することができました。当課だけでなく、院内全体で物品確保にご協力頂けたことで、最悪の事態を避けることができました。

N95マスク編

N95マスクも海外生産のため、供給不安定となりました。厚生労働省が例外的に再利用することを認めたこと、現場で切り詰めて使用いただいたことで、なんとか持ちこたえることができました。

また国や県からの物資の配布にも助けられましたが、配布される物資は、N95に限らず、その準じる規格(KN95やKF95)も多く、現場の方々に不安やストレスを感じさせないために、感染管理室に協力して頂き、慎重に払い出し先を選定しました。

番外編 はじめての装着

2020年2月、56カ国・地域の人々が乗船するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの集団感染が発生しました。感染者や家族は次々と医療機関に搬送され、搬送先は停泊した横浜港周辺の都県では足りず、関西にも及びました。当院も21日(金)、4人の受け入れが決まり、病院管理課は院内の導線の確保業務を担当しました。感染管理室と協議して、感染者が院内を通行するルートを決め、そこに入院患者を近づかせないための誘導です。23時頃の到着までにN95マスクの装着練習をしましたが、初めての私たちにとって想像を上回る呼吸のしづらさでした。が、一方で守られている安心感(締め付け感・・・)も確かにあり、この経験は感染対策物品を安定供給することの重要さを一層強く認識するきっかけとなりました。その後、予定の時刻を過ぎても一向に患者さんを乗せたバスは現れず、たしか到着は日をまたいだ2時すぎでした。無事業務を終え、病院を出るころには周囲は明るくなっていました。

寄付(支援)物品編

個人や企業、公共団体から、たくさんのご寄付を頂きました。国から支援物資が届くときは、いつも突然で、台車を持って課員総出で慌てて対応しました。物資が届くたびに、感染管理室に報告して実物を見ていただき、使用方法や使用部署を決定しました。なかには開封済みのものや仕様書(防護レベルの記載)がないものも含まれており、その後の対応に苦慮しました。特にガウンは重たくて、汗だくになりながら倉庫に運んだあと、防水機能がないとわかったときの虚しさ(T_T)。当院では、ある一定の基準を満たしたものしか現場での使用が許されません。そのため基準外物品は、医療従事者の装着練習での使用や、事務職で使用するよう善意を無駄にしないよう心掛けました。

また、今もなお頭を悩ませているのが、保管場所の問題です。善意のご寄附は大切に使わせていただくつもりですが、次々と届く物品の保管場所の確保に苦労しています。

SPD(供給センター)編

当院では、医療材料の調達と供給業務(SPD業務)を委託しており、現場の声を以下に紹介します。

【コロナ対策としての取組み】

  • 通常在庫として保有する在庫数の増量と出荷数の調整を実施

発注をかけても物品が供給されないなかで、卸業者、メーカーと連絡を密に取り、物品確保に努めました。

  • スタッフがコロナ感染しないように手洗い、消毒の徹底と執務環境の改善

  医療材料の納品、検収、ピッキング、病棟・外来へ搬送をおこなうスタッフの感染は病院運営に大きな影響を与えかねません。一人ひとりが医療従事者の意識を持ち、感染対策を徹底しました。

  • 病院からの情報をいち早くスタッフ全員に伝達・共有

  病棟のゾーニング等の感染対策に関する情報をスタッフと共有しました。

【苦労した点】

 在庫不安定時に過去の払い出し数を基準に、払い出し数を調整しましたが、他の部署と比較されることで、二重に説明が必要になり苦労しました。また、電話が鳴りやまないほど在庫の問い合わせが増えたことで、通常業務に支障がでました。今後のSPD運営の課題としたいと思います。

 当初、コロナ関連部署の担当スタッフが搬送に行く不安を口にしたことがありました。病院管理課から安全である説明を受け、本人が納得したうえで業務を行いました。

 事務室は限られたスペースでの業務の為、密にならないようにすることに限界がありました。後に、感染管理室の職場ラウンドを受け、送風機で換気を行うなど対策をとりました。

【工夫した点】

  • 病院管理課用度係へ感染対策品の入出庫状況日時報告
  • シフト制を導入してスタッフに定期休暇を与え過労働にならないように配慮

【今後に向けた課題と所感】

 物品の確保とスタッフが感染しないように細心の注意を払います。

今後に向けた課題

当院は県民を守る「最終ディフェンスライン」のはずが、急激に増加した需要に対応するための感染対策物品の備蓄が場所の問題もあり充分に出来ておらず、物品の選定から始めることとなってしまいました。緊急・災害時にはSPD業者の倉庫が物品供給拠点として稼働できることになっていますが、新型コロナウイルスのように全世界で猛威をふるう事態では万全とは言えません。それに感染対策物品は非常にかさばります。今も防護服やガウン、飛沫を防ぐフェイスシールドが高く積まれ保管されており、今後のためにも、緊急時の備蓄と院内供給センターの拡張や備蓄倉庫の整備を検討すべきだと考えます。

今回、感染対策物品の確保に奔走したことで、常日頃から医療現場のスタッフをはじめ、各メーカー・卸業者とコミュニケーションを密にし、信頼関係を構築していくことが、緊急事態を乗り切るためには重要だと学びました。

2022年1月時点では、オミクロン株の影響で感染者数が爆発的に増加し、検査関係の試薬や消耗品が供給不足となっており、その確保に努力しているところです。今後も病院管理課として、できることを努めてまいります。

1日も早く、マスクなしでクルーズ船に乗って海外旅行に行ける日が来ますように。

(注)ニトリルグローブ・・・ディスポーザブル個人防護